ここ3か月の出来事

※公開にあたって、配慮した分少し読みにくいかもしれないけれど、内容は変えてないので、4000字弱の長文読んで下さいまし。

 

【前置き】OJはおふくろが死んで1年くらい経ったころから、カノジョが欲しいと言い出した。狭いT市の町中に出向いては、年齢構わず話しかける日を過ごしていたらしい。青や黒づくめのスーツだったり、ある時は白づくめのスーツだったりを身にまとい・・・。

警察に不審者として通報されたり、不審者情報として警察のホームページに載ったりしたこともあったことが、後になってわかった。

でも当時は全くそんなことになっているなんて分からなかったから、OJのカノジョが欲しいという思いには真剣に向き合わなかったんだ。

でも、ある時、OJの口から、「新聞の訃報欄を見て、60代70代の男の人がいたら、その家の電話番号を調べて、その家に電話して、お相手に不自由していませんかと聞いている」ということを聞いた。血の気が引いたよ。そこまで人恋しい思いが切迫しているのか、もはや正常な判断もできなくなっているのかって思った。それなら狭いT市よりこっちにきで出会いを求めてはどうかって提案したけど、それはその時かたくなに拒否された。ならば、高齢者の出会いの場として一番多いのは「カラオケ喫茶」だから、T市にある店を全部教えて、全部に足を運ぶように教えた。

すぐ実行に移したOJは、そのことを伝えて2週間目の一昨年4月にカノジョをすぐにみつけてしまった。60代の人。バツ2で、一人目は病気で死別、二人目はDVで離婚訴訟に勝訴した人とのことだった。OJの年齢に対して、若い人だなって思ったことと、二人目の離別理由が気になって、財産、お金目当てじゃないかって不安になったけど、付き合いだしてそれでも念願のカノジョなら・・・と複雑な気持ちながらとりあえず様子を見ていた。

ところが相手がすごくOJのことを好きになってしまったらしく、異常なくらい体調を気にしてくれて、OJが生活しやすいように気遣ってくれたり、実家にもしょっちゅうというかほぼ毎日寝泊まりしてくれたりしていた。オレのところにもOJの体調相談で電話がかかってくることもあったし、その口調もとてもやさしくおっとりとした口調で、OJから聞く、その人との甘い生活もとても幸せそうに聞こえて、安心していたんだ。

【事件】それが一気に崩れたのが去年の10月26日だった。夜そのカノジョから電話がかかってきた。

「OJと別れようと思う。OJは私がいない留守の間に、家の周りを徘徊している知的障害者の女性を引き込んで、性行為をしているから。だからOJの家に置いた荷物も全部今持って引き揚げますから。残念だけどお世話になりました。」

という内容だった。そしてそれはOJの住む実家からで、全く見ず知らずの男一人を引き連れて野外からかけていた。改めて屋内のOJに電話してみると、OJは「カノジョにわけもわからず、叩かれて蹴られた。こわいから家に閉じこもっている。」とのことだったので、自宅に知的障害者の女の子を引き込んだことはどうなのか聞いたら、「全くそのような事実はない」と断言している。それならば怖がっていないで、しっかり話せばいい、俺が電話口で会話の様子を聞いていてあげるから、とカノジョをそのまま家の中に引き入れるように言った。すると電話口からは聞いたことのないようなドスのきいた脅しのようなカノジョの声が大きな音で聞こえてきた。口汚くののしって、これがあの電話で聞いた声のカノジョ本人なのか?と思ってしまうほどの怒鳴り方だった。結局電話口からは別れ話は成立したようだったし、怒鳴り散らして引き上げたカノジョから、俺に電話がかかってきた時は、なにも気にしていないのか、聞かれていたことを気づいていないのか、いつもの優しい声だった。

「OJとはもう別れます。もう会いません。」

とのことだったので、OJにカノジョと別れることを再確認したら、「もう別れることになったが、最後に明後日だけ会いにくる」ということだった。

・・・おかしいな。カノジョは俺にはもうOJとは会わないって言っているのに、OJに対しては明後日もう一度だけ会いに行くって言っている。何があるんだろう、と考えたら胸騒ぎが止まらなくなった。知的障害者の女性を引き入れているというカノジョの話も、きっとウソだろう。もしやOJの身に危険が迫っているんじゃないか?と。

翌日火曜日だったけど、急きょ有休をとって実家に行ってみた。実家はカノジョとのことも気を遣って1年半以上ぶりだった。そこでみたOJの姿を見て、唖然。げっそりとしてまるで病人。電話で最近舌の調子が悪くて、食べ物がおいしくないという相談は2ヵ月前に聞いていたのが、こんなOJは見たことがない・・・。体重は10kg減ったらしい。さらに実家の玄関から屋内に入ってビックリ。家中にひろがっている石油のにおい。半年前にOJの寝室の石油ファンヒーターから石油が漏れて、直してはもらったけど、絨毯や床はそのまんまの状態になっていた。こんなところに半年もいたら、有機溶剤中毒になって当たり前!食欲もなくなるから栄養状態が落ちて、味覚障害が起きて、さらに食べなくなる悪循環に陥れば、もうOJは冬の間死んでしまうだろうって直感的に思った。それにしてもカノジョはこの異常な環境に何も言わなかったんだろうか?とまた悪だくみしているという疑念が頭をよぎる。オレは渋るOJを強制的に連れ出してこっちまで車に乗せて連れてきて、こっちに住まわせることにしたんだ。

【その後】1週間アパホテルに泊まらせ、その間にアパートを探し(同居はムリだから、お互い)自宅近くでみつけたアパートに11月3日から住まわせた。そのころは、こっちに来たことで安心した、いい部屋だ、いいところだって喜んでくれていたし、死ぬまでここにいたいって言っていた。別れたカノジョについても、暴力を振るわれたことがとても腹立だしいし、二度と会いたくない、声も聞きたくない、喜んでお別れする、と息巻いていた。その後OJの車も取りに帰ったし、こっちでの新しい生活がスタートした。でも・・・どうしても新しいカノジョ欲しい願望は変わらなかった。以前T市でやっていたような行動は慎んでほしかったので、いろいろ口酸っぱくあれやっちゃダメ、これやっちゃダメって言ったし、コロナがひろがってきた時期だから出会いの場への外出も勧められなかった。そうしたら来て1ヵ月たったばかりなのに、もうここにはいられない、帰ると言い出した。モトカノジョはもう別れてしまっているから大丈夫だし、石油の問題も自分で何とかなるっていう始末。そこで、モトカノジョについてはOJの携帯電話は着信拒否しておいた上で、そしてその間はオレの電話にメールや電話が入って来ていて、復縁をずっと望んでいる内容の文面がかなり多かったことを教えた。OJはそれを聞いて、まだ自分がモトカノジョと切れていないことを知り、帰ることはあきらめた。しかし、正月にまた帰りたいと言い出した。モトカノジョには家にきたら木刀で追い出すから一人で住んでいても大丈夫だ、帰ることができる、と言い切る。でも石油の問題は何にも解決していないのだから、となんとか帰ることを思いとどまらせた。そして先々々週、石油汚染の部屋は壁で仕切るように住宅会社に手配した、引っ越し業者にも引っ越しの予約をしたことを伝えてきた・・・。

もう引き止められないと思った。とにかく地元に帰りたいんだというOJの気持ちを、俺がいろんなことを心配してこれ以上遮ってはいけないんだって考えた。それで1月28日に引っ越しして帰ることになった。

【思う事】子供として精一杯のことを悩み考え、できる限りのことをしてきた。それは金銭だけではなく労力、精神力を大きく伴うものだった。でもOJにはそれが伝わっていない、いや伝わっていてもそれを上回る帰りたい思いがあったわけだ。OJは子供のころから俺を怒ったことがなかった、やさしいOJだった。理解もしてくれた。でもなぜだろう、いつもおれはOJが背中を向けて離れていくイメージばかり感じてきた気がしていた。病気のおふくろと一緒にいる時間は長かったし、OJはいつも仕事で疲れて帰ってきて、休日はあまり一緒に過ごすこともなかったように思う。だからひとりになったOJを近くに住まわせることは、いろいろ気づかいはあっても本当にうれしかったんだ。でもダメだった。OJはペットやモノじゃない。一人の人間だからね。自分の希望や都合で縛ることなんてできないよ。モトカノジョは今でもOJのことを想っているし、石油のことだって、仕切りを作って解決できるとは思わない。だから離れることで、心配事は倍増することになったけど、もう何も言わないで帰してあげようと思った。思い通りT市で幸せに暮らしてほしい。身体が都合悪くなったら、いつでも助けに行けばいい、そう思うことにしたんだ。いまは・・・ただ寂しい。

もうひとつ。モトカノジョとのメールのやり取りをしてわかったこと。妄想症嫉妬型の病態を患っている。危険なタイプで相手に身体的危害を加えかねない。さらに性格的なものなんだろうけど、平気でうそをつくし、話も作る。(病的だったら作話・さくわっていうかな)すぐにOJが戻ったことは嗅ぎつけて実家にやってくるだろう。その時に事件にならないようにいろいろ考えてあげなくちゃいけないけれど、近くの駐在所や本家に伝えておくくらいしかできることはないかな。(すでに大まかな話はしてある)本当に心配だよ。

以上がこの3か月間に起きた怒涛の出来事だよ。疲れる日もあったし、嬉しいなって思う日もあった。でも結局余計に寂しくなったんだ。          

(終わり)